カンボジアの首都プノンペンの中心部から車で１時間ほどの距離にある郊外の農村地帯には、人の背丈の数倍もある大きなヤシの木（10～20m）が集落のところどころに生えています。このヤシの木は、その土地の人々とともに根付いてきた、なくてはならない植物です。毎年、1月から５月の乾季の間に、花が咲きます。その花蜜を伝統的な製法で煮詰めてつくるのがパームフラワーシュガーです。花蜜がとれるのは、花が咲いてからわずか6時間以内。だから、生産者たちは、毎日6時間ごとに、最大２０mもあるヤシの木に、自家製の竹で編んだはしごに昇り、花蜜の状態を見に行かなければなりません。 重労働の農作業に加え、都市部の経済成長もあり、若者が農村から離れていきました。工業的で安価な精製砂糖の広がりも拍車をかけました。一時期は、パームフラワーシュガーの伝統農法の存続自体も危ぶまれました。独特の柔らかな甘味とほのかなコクのある旨味。新鮮な花蜜をじっくりと煮詰める伝統農法だからこそ出せる、この味わい。この貴重な食材と伝統的な農法を守らなければと、トレテスの協力工場であるConrel社（カンボジア）は、生活費や資金的な援助をはじめました。さらに、収穫後ではなく、年間契約で賃金を事前に払う制度などを独自に立ち上げ、パームフラワーシュガー農家の支援をスタートしました。現在では、約40軒の農家がパームフラワーシュガーの生産を生活の糧として暮らしています。